2016年9月19日月曜日

ヘッドホンアンプHPA-12の製作(2)

以前投稿したヘッドホンアンプHPA-12の製作(1)ではとりあえず音が出るところまで工作して音質等を評価しました。
今回からは、あちこちをいじってできるだけ好みのアンプにしていきたいと思います。

まずはケース加工。タカチのYM-250を使用しました。このYMシリーズはそこそこ安い上にツートンカラーでかっこいいのでよく使います。
外見はシンプルに、前面はヘッドホンジャック・電源スイッチ・ボリューム、後ろには入力端子・ヒューズホルダ・ACインレットと特筆すべきところのない普通のデザインです。



と、ここで問題が(って、ケース買う時点で薄々気づいてはいましたが)。
このケースは内側の高さが47mm程度しかないので、使いたかった6.3V2回路1Aのトランスが入りません。これは仕方がないので、割高でスペースを取りますが1回路の背が低いトランスを2つ使うことにしました。

この時点で全体の写真を撮り忘れていたので中途半端な画像しかありませんが、下のような感じです。下の画像では基板のアースが適当になっていますが、この後ちゃんとしっかり繋ぎなおしています。



トランスとアンプ基板の間にアルミ板の仕切りがありますが、これはハムノイズ低減等の具体的な効果を求めたというよりはファッションですね…ついている方がプロっぽくてかっこいいですから。実際、特に音に関する効果は認められません。
こういうムダをやっても誰も怒らないのが自作の良いところですね。


さて、一応箱に入って落ち着いて聞けるようになったので、いよいよ手を入れていきます。

注)以下の部品番号は、このページ(外部リンク)の回路図に準じます。自分仕様の回路図も一応作ってあるのですが、原典をご覧になる方が良いと思います。


まずは前回の記事に書いた、高音が出ない問題。
高周波がアンプに入らないように、仕様通り(C7, C57) 入力に220pFのスチロールコンデンサを入れてあったのですが、この値がちょっと大きすぎるのが原因と判断しました。
さっそくこのコンデンサを取り払ってみると、やはり思った通り高音が出るようになりました。しかしこのコンデンサ無しではやはり若干不安なので、無線部の部室に転がっていた62pFのマイカコンデンサを付けておきました。これでOKでしょう。

取り外された後の220pFスチコンと、取り付けを控えた62pFマイカコン


次にハムノイズ。常用しているヘッドホン K712PROでは全く聞こえないので問題ないのですが、低インピーダンス高能率のイヤホンではそこそこ聞こえるので退治したくなりました。

このハムはトランスと基板の位置関係を変えてみても変化しないので、電磁波として飛び込んでいるのではなく電源に乗っているリップルが原因と考えました。
そこで、手始めに電圧増幅段の近くにコンデンサを追加する改造(TIPS-10/外部リンク)をやってみました。ちょうど入力カップリングコンデンサを取り付ける場所(C1, C51)が空いていたので、基板のパターンをカットしてここに日ケミ KMG 1000μF/25VとPanasonic ECHU 0.1μFをパラにして取り付けました。
これではハムノイズはほとんど減りませんでしたが、ちょっと音の立体感が増したように感じました。

次に、初期状態では採用していなかった抵抗式リップルフィルタを試すことにしました。
最初にリップルフィルタの音の傾向をつかむべくR80, R81(アンプに供給されるすべての電流が通る箇所)に10Ω 1/2Wの抵抗を入れてみました。使った抵抗は余り物のニッコームRP-24Cです。
これはハムノイズに効果てきめんでしたが、同時に音質もガラッと変わりました。音が遠くなり、良く言えばやさしい感じ、悪く言えばダラダラした感じになりました。私はもうちょっと元気の良い音にしたかったのと、このリップルフィルタで電源電圧が2Vくらい落ちてしまうのも気になり、さすがに却下。

次に、パターンを4か所カットして電圧増幅部だけに2.2Ωを入れてみました。
使用した抵抗はKOAのMF(いわゆる普通の金皮)1/4Wです。これは気に入りました。電圧降下は小さく、ハムノイズもバッチリ消え、音のダラダラ感も悪く感じるほどではありません。むしろ、全体的にガヤガヤしていた音が少し落ち着いて聞きやすくなったという感じ。
ハンダ付けが汚いので画像はありません!
ハムノイズ対策はこれで決定。


次にボリュームの交換です。前回書いたように10kΩ Aカーブでは音量変化が不自然でしたが、試しに部品箱に転がっていた安物の100kΩ Aカーブのものを付けてみると良い感じでした。ただ、安物のボリュームは音質・回したときの感触・左右の音量差などいろいろと難があるので、せっかくだからと良いものを使ってみることにしました。購入したのはソフトンのアッテネータ(100kΩ)。外見は完全にアルプスのミニデテントの模造品ですが中身は全く別物で、チップの金属皮膜抵抗を使った23接点のアッテネータです。ものが大きいと安心感がありますね。ハンダ付けもしやすいし。

このアッテネータの裏にはALPS JAPANと印刷されていますが、さすがにマズいということなのか(?)、手元に届いたときには黒く塗りつぶされていました。

さて、ケースに対してけっこうギリギリに近い大きさですが無事ボリュームを交換できました。回した感触はかなり安っぽいですが、音量調節がしやすくなり左右の音量差もないのでOKです。ただ、回したときに時々小さなノイズが入ります。スイッチのショーティングがうまくいっていない部分でもあるのでしょうか。気になるほどではないですし、値段を考えるとこんなものかなと思います。
また、最初についていたボリューム(Linkman RD925)との音質差ですが、数日間このアンプの音を聞いていなくて突然交換したのでよく分かりませんでした。交換直前にしっかり聞いておけば分かったかもしれませんね。
ボリュームの交換ついでに、入力端子からボリュームまでの配線材も太いものにかえておきました。最初に使っていたのは古いパソコンから取り出したIDEケーブルを裂いたもので、少々細すぎて頼りなかったものですから。

もうひとつ、ヒートシンクも交換しました。
最初はアルミ板1枚でしたが、交換後は銅板にアルミヒートシンクを取り付けた本格仕様(?)になり、放熱性能がかなり上がりました。

剣山状態です。

ヒートシンクと同じように熱対策として、終段のバイアス電流も減らしておきました。回路図のC10, C60と並列に4.7kΩの抵抗を入れます。
これで、終段トランジスタ1個あたりのバイアス電流は55mAから45mAに減りました。もう少し減らしても良いと思います。

ところで、せっかくヒートシンクを付けて放熱対策をバッチリしたのですが、狭いケースに入れてしまっては効果が半減どころではありません。そこで、ケースに穴をたくさん開けて熱気を逃すことにしました。
最初はパンチングメタルを買ってきてはめようかと思ったのですが、ケースに直接穴を開けた方がスマートでかっこいいと思って実行したのがこちら。



ああ……
ボール盤を使ってこの出来とは、さすがに悲しくなってきます。アルミ板がかなりしなるせいか、思ったように加工できませんでした。経験不足ですね。
しかし、ケースを買いなおすのも嫌なので今回はこれでいきましょう。これも自作らしい味わいということでOK,OK.
次に、空気の対流を促進するため下面にも穴を開けたのですが、この時はもう慣れていたので上面よりマシな出来になりました。



普段見えない下面を先にやって、慣れた所で上面に取り掛かるべきでしたね。これは今後の教訓とします。


意外に長くなってきたので、突然ですが今回はここまでです。
ダラダラとたくさん書いてしまって読みにくい記事になってしまい、すみません。
次回は完成編なのでもう少しはおもしろくなると思います。

つづく

2016年9月11日日曜日

ヘッドホンアンプHPA-12の製作(1)

今年5月からオーディオ関連の電子工作をやりはじめ、ヘッドホンアンプもいくつか作ってきました。

しかし、手持ちのOlasonic NANO-D1に勝るものはさすがに作れず(アマチュアなので当たり前ですが)、いつかはこれに対抗できるようなしっかりしたヘッドホンアンプを1台作りたいと思っていました。
そこで偶然見つけたのがHPA-12(外部リンク)というヘッドホンアンプ。
これはtakazineさんという方の設計になるもので、回路図をはじめとするさまざまな情報が公開されており、基板の頒布もあり、自分で部品を集めてある程度アレンジしながら作ることができるというフルディスクリートのヘッドホンアンプです。
ディスクリートのアンプを自分でゼロから作る自信は無いので、勉強も兼ねてこれに頼ることにしました。

早速スイッチサイエンスで基板を1枚購入し、秋葉原で部品集め。できたのがこちら。


回路は基本的にこのページ(外部リンク)と同じですが、初段は2SK2145、終段はTTA004B/TTC004Bに変更しています(ちなみに現在はTTA004B/TTC004Bに最適化された回路図が公開されていますが、私がこれを作った7月下旬にはまだありませんでした)。

また、A級アンプなので発熱が多かろうと思い、無線部の部室に転がっていたアルミ板を適当に加工した放熱板を付けました。

さて、これをトランス電源に繋いで聞いてみました。
構成は、
Win10 ノートPC (AIMP4  WASAPI排他モード)→NANO-D1(LINE出力)→HPA-12→K712PRO
という感じです。

最初はとんでもなくザラザラした感じの音でしたが、半日ほど音楽を流しっぱなしにしておくとクリアになりました。電解コンデンサのエージングというやつでしょう。
このアンプはDC直結ですが、安定してからのDC漏れは左右ともに±1mV程度と全く問題ありません。

解像度はけっこう高く、立体感もあります。パワーもじゅうぶんで、比較的高インピーダンス低能率な私のヘッドホンもじゅうぶん鳴らせています。DC直結なので低音はよく出ています。
ただ高音が全然出ておらず、K712の特長であるきれいな高音が楽しめません。また、中音域は少しガヤガヤしてうるさく、あまり音量を上げたくない感じです。
また、低インピーダンス&高能率なイヤホンでは少しハム音が聞こえます。常用しているK712PROでは全く聞こえないので問題ないといえばそれまでですが。

あと、想定よりも発熱が多く、上の写真で放熱板の後ろに写っている電解コンデンサ(85℃品)がちょっと心配になります。

そうそう、書き忘れていましたが、普通に音楽を聞くうえで重大な欠陥がありました。これはアンプ自体が悪いわけではなく私の単なるミスですが、ボリュームに10kΩAのもの(Linkman RD925)を採用したところ、音量調整が極めて難しいアンプになってしまいました。ボリュームを完全に絞ったところから少し回すとすぐ爆音になってしまいます。しかも、ボリューム9時くらいまでは若干左右の音量差も感じられます。これも要改善ポイント。

というわけでこの時点では目標とするNANO-D1の音には全然及びませんし、発熱が多すぎるので安心して使えません。そこで、このアンプをどんどんいじってしまいました。1か所変更するたびに試聴が必要ですし、改良のつもりが改悪になってしまうこともしばしばあって意外に大変な作業でしたが、かなり好みの音に近づいたと思います。

続き: ヘッドホンアンプHPA-12の製作(2)